「あのさぁ、長野にすんごい水作ってる会社あるんだよ。 一緒に行ってくれない」
この人からの電話は、たいてい前提も何もなく、本題から話が始まる。
聞き逃すと分からなくなるので、電話を取る方が緊張するのだ。
この男の名前は、澤田升男という。
建築業界では、結構、有名人だ。
自分が作った会社を二回も売却した猛者である。
平たく言えば、半端じゃない大金持ちである。
とにかく、すごい水だから、びっくりするとのこと。
飲むだけではなく、サウナで体感できる。
大量に汗が出るし、出た後もシャワーを浴びなくても肌がサラサラなのだという。
澤田さんが言ったことは、だいたい本当である。
しかし、私、サウナは苦手だ。
あの暑くて、乾燥していて、息苦しいのがダメなのだ。
そもそも入浴というのは、癒されに行くわけで、どうして我慢しなくてはならないのか、分からない。
何でも、サウナは会社の中にあるという。
私は澤田さんの依頼は、断れないので、行くこととした。
向かうは長野県茅野市である。
名古屋から車で2.5時間くらいかかって住所の会社近辺についた。
しかし、そこは田園に囲まれた場所、会社らしく建物はない。
半信半疑ながら車を進めると、スマホ片手の澤田さんがいた。
その奥には、プレハブの建物があった。
これがサウナ?